全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第8回 鹿児島県

取材時期:2009年1月

鹿児島の桜島ではギネスブックに認定された世界一大きい桜島大根が栽培され、その大根を使った粕漬けや味噌漬け、たまり漬けやシソ風味漬けなどが作られている。また「薩摩富士」と呼ばれる開聞岳がある指宿市では、干した大根を塩だけで長期醗酵させた山川漬けが伝統的に作られている。

 鹿児島市の錦江湾に浮かぶ桜島は、現在も噴煙を上げる活火山。火山による噴出物で島ができているので保水性が低く農作物は育ちにくいが、火山灰土壌に適した桜島大根のほか、1本の木に世界一たくさん実を付けるという「桜島小みかん」が特産品になっている。桜島の北岳を望む松浦と白浜地区を中心に桜島大根が栽培されている。

「畑の土に水分が多いと大根は大きく育たないんですよ。水分を求めて根を張って、大きく育つんでしょうね」

 そう教えてくれたのは、桜島大根を作っている農家の村山利清さん。4ヘクタールある畑のうち、60アールで桜島大根を作付けしているそうだ。

 種まきは9月上旬ごろ。石灰をまいて土壌を中和してから完熟ぼかしをすき込み、畝を立ててマルチ用ビニールをかければ準備完了。畝間は1m、株間は90cmにして、1か所に20~30粒をまくという。

フェリーから望む雄大な桜島 (写真提供:藤崎茂実 様)

「種をまいたら、ハトとの闘いなんです。朝から晩まで交替で見張りをしないと、まいたとたん、ハトに食べられてしまうんですよ。まるでハトのレストランみたいになります。大声を出したり、ロケット花火や爆竹を鳴らしたり、とにかく苦労します」

 その後、追肥をしたり土寄せをしながら、3回の間引きを経て10月初旬~中旬に1本立てにする。1月末から2月にかけて、ほどよく育った順にひとつずつ収穫していく。

 理想の桜島大根は、扁平で厚みのあるもので、叩くと締まった音が鳴るもの。軽い音だと中に「すが入っている」(内部が割れて空間がある状態)という。形のいい大根は翌年の種用に20~30本残しておき、5月ごろに採種する。

左:桜島大根は、ギネス認定の「世界一大きい大根」
右:木の棒で軽く叩いてみて、締まった音が鳴るのが理想的

ジューシーでフルーティーな桜島大根の漬物

「桜島大根はその大きさが注目されますが、肉質が柔らかくてジューシーなんです。包丁で切ったときにフルーティーな香りがするのが、ほかの地域にはない桜島産の特徴ですね」

 鹿児島の漬物メーカー・ふじさき漬物舗の藤崎茂実さんは、創業者である祖父母が桜島出身ということもあり、桜島で栽培された桜島大根に魅せられているひとり。同社の桜島大根の粕漬けは、かつて「鹿児島漬」と称して販売していたが、桜島ブランドを確立したいという気持ちで「桜島漬」と名前を変えたほど思い入れがある。

 桜島大根の粕漬けの作り方は、大根を3cmの厚さに切りそろえ、15~20%の塩水に半年から1年半漬ける。それから下粕漬け、中粕漬け、上粕漬けにそれぞれ約1か月ずつ、さらに仕上げ漬けを2回行なってようやく完成だ。どんなに早くても秋にならないと食べられない。

 このほかスライサーで薄切りした大根をたまり漬けやしそ風味漬けにしたものもあり、桜島大根の迫力を感じられると同時に、ジューシーさが味わえて人気を呼んでいる。薄切りの漬物は塩漬けに約1か月、調味液に24時間漬けて完成する。

粕への漬込みは、主に手作業で丁寧に行われる

粕への漬込みは、主に手作業で丁寧に行われる

「桜島漬」という名で販売されている桜島大根の粕漬け

「桜島漬」という名で販売されている桜島大根の粕漬け

 青果として販売されている桜島大根は2割程度で、ほとんどが加工用に使われている。藤崎さんによると、2~3年前は鹿児島市内のスーパーでもほとんど売っていなかったそうだ。4つ割りにしたものが、400~500円なので、普通の大根の倍以上の値段。それでも生で食べてもジューシーで甘みがあり、大根くささをまったく感じない。煮くずれしにくいので煮物にも向いているし、まさに「大根の王様」と呼んでいいだろう。

 

1: まずは大根部分を2〜3個に大割にし、塩漬けにする
2: 3週間経ち少しシンナリしたら、スライサーでうす切りにし、調味漬けを行う
3: 桜島大根は、大きさもさることながら肉質のやわらかさやジューシーさが特徴
4: その大きさがストレートに伝わる「桜島大根うす切り」は、「桜島漬」と並ぶ人気商品

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