全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第35回 佐賀県

取材時期:2015年6月

佐賀市から約25km西側、牛津川沿いの盆地に広がる多久市は、孔子の里として知られており、市内に残る「多久聖廟」は、現存する聖廟としては足利学校(栃木県)、閑谷学校(岡山県)に次ぐ古い建物といわれている。そんな歴史ある多久市の「青しまうり」の酒粕漬けは伝統の味として定着し、全国にもファンが多い。

塩漬けしたのち、1か月以上酒粕に漬けて完成する「青しまうり漬」

地域の名産品になった「青しまうり漬」

 多久市の夏季限定の特産物「青しまうり漬」の販売が、71日から始まった。農産物直売所「たくさん館」に訪れた市長やJA関係者は、「しっかりとした漬け具合とカリッとした歯ごたえは今年も健在」と期待を寄せる。

 「青しまうり漬」は、昔から栽培されている青しまうりを酒粕に約1か月間漬けたもので、砂糖、塩、酒粕のみを使用した自然食品。一般的な白うりに比べてカリッとした歯ごたえに特徴があり、酒粕の芳醇な香りが人気で、市内はもとより県出身者を中心に全国から注文がある。

 「カリッとした食感と酒粕の香りが、芋焼酎とよく合うんですよ。佐賀ではお茶請けにこういった漬け物を出すことも多いですね」

 そう話すのは、JAさが佐城地区多久中央支所・営農経済事業所農産野菜課の野中大史(ひろふみ)さん。一口いただくと、独特な酒粕漬けの香りが口に広がり、ご飯がいくらでも食べられそうだ。

 青しまうりは家庭で自家用として栽培され、酒粕漬けや浅漬けとして食卓にのぼっていたという。それを地域の名産品として商品化したのは、平成元年ごろ。メロン農家を中心に、青しまうりの栽培を委託するところから始まった。ところが、作り手が高齢化していることもあり、手間がかかる新しいことはしたくない。また、在来品種は栽培が難しく、収穫量が少ないという欠点もあった。それでも、少しずつ取り組む農家が増えて、今は13名が青しまうり栽培に取り組んでいる。

青しまうりを選別している農家の陣内さん。500gを基準に「手で持ったらだいたいわかる」と言う。

青しまうりを選別している農家の陣内さん。500gを基準に「手で持ったらだいたいわかる」と言う。

露地栽培よりもハウス栽培が向く

 JAの青しまうり部会の会長を務めたこともある陣内(じんのうち)武資さんは、露地栽培ではなくハウスで青しまうりを作っている。

 「栽培期間に梅雨があり、長い期間、雨に当たると病気になりやすいんです。だから、ハウス栽培のほうが安定した品質の青しまうりを収穫できます」

 陣内さんは苗を定植しているそうだが、青しまうり部会の現会長が種を自家採種して保管し、それを種苗業者に委託して苗を作ってもらっている。

 肥料をすき込んでから畝を立ててビニールマルチを敷き、穴を開けて苗を定植するのは3月下旬。親株から子づるを4本仕立てにして伸ばしていく。子づるから孫づるが出るので、孫づるに実が付くように摘心(実や花を大きくするために、新芽の先端を摘みとること)していく。子づるに実が付くと形が悪くなってしまうらしい。

陣内さんが栽培しているハウスのひとつ。梅雨の長雨に当たらないほうが、病気になりにくいという。

陣内さんが栽培しているハウスのひとつ。梅雨の長雨に当たらないほうが、病気になりにくいという。

 「青しまうりを作り始めた30年近く前にこの方法にたどり着きました。栽培のコツは、枝を太らせることと、古い葉っぱを取り除くこと。この手間によって、成長するほうに養分が回り、日当たりもよくなって、うりの肌がきれいな緑色になります」

 花が咲いてから実が付くまでは2週間と短い。4月下旬から5月中旬にかけて、大きくなったものから収穫する。状況に応じて、実がついてから冠水チューブに液肥を加えて追肥を行なう。

 地温が上がると、うりの内部が色づいてしまうので、収穫は日の出と同時の早朝に行なう。収穫を終えたものは、形や大きさを選別して、JAに出荷する。

孫づるに実がなるように、摘心してつるを伸ばしていく。なりはじめると、早朝からの収穫作業が忙しくなる。

孫づるに実がなるように、摘心してつるを伸ばしていく。なりはじめると、早朝からの収穫作業が忙しくなる。

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