全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第9回 青森県

取材時期:2009年5月

冬は地吹雪が舞う寒さの厳しい津軽では、山菜が収穫できる春の訪れが待ち遠しい山菜シーズンは春から初夏までが一般的だが、「ミズと呼ばれるウワバミソウは秋まで収穫できる地元ならではの山菜である。津軽の西北地域ではミズを切らずに漬け込んだ「一本漬け」が親しまれているほか、ご飯を使った独特な漬物が存在している。

ミズを「一本漬け」にするのは、津軽地方でも一部の地域だそう

ご飯の漬物「すしこ」は、その色から「赤めし」や「赤いご飯」などとも呼ばれる

ミズを一本漬けにして豪快に味わう

 最初に訪ねたのは中泊町にある特産物直売所。ここから山菜採りのベテラン、田中恵津子さんと成田昭さんの案内で山に向かった。

「私は山菜を採って瓶詰めにしたり、漬物を作ったりするのが好きだけど、実は自分ではあまり食べないのよ」

 山菜を収穫しながら、田中さんはそう言って笑う。斜面にある山菜を採っているときには、視線はもう次の山菜を見つけている。30分くらい歩いただけで、ひと抱えのワラビやネマガリダケ(チシマザサ)が集まった。その後、湿地を好むミズの収穫に向かった。沢の両側に密集して生えていて、根元の色の違いによって赤ミズと青ミズがある。今回収穫したのは赤ミズで、根元の赤い部分を包丁の背でたたくと“とろろ風”に味わえるという。

左:驚くほど手早く山菜を収穫していく田中さん<br />
右:奥/ネマガリダケ、手前/ワラビ

左:驚くほど手早く山菜を収穫していく田中さん
右:奥/ネマガリダケ、手前/ワラビ

 「ミズの一本漬けにするには、本当は夏のお盆過ぎごろに収穫したほうがいいんですよ。太くなって実も詰まっているし。これくらいのは筋がなく柔らかいのでミックス漬けに向いてますね」 

 収穫したミズは手で皮をむいて熱湯にさっとくぐらせてから塩漬けで冷凍保存しておく。塩抜きしたあとでゆでたり炒めたりして食べるが、一本漬けの場合は皮をむかずに漬け込み、皮をむきながら食べるのが津軽式の食べ方。一本漬けのほうは葉っぱが付いた状態でミズを束ね、葉を切り落としてから樽で塩漬けする。山菜の目方の5割の重さの塩を入れ、軽めの重しをのせておく。塩漬けのときに糠を入れる人もいるが、田中さんは入れないほうが色がよくなると言う。

左:田中さんの「山の先輩」成田さん。群生するミズの緑が清々しい<br />
右:根の部分が赤い「赤ミズ」。沢の水でさっと洗う手際のよさ

左:田中さんの「山の先輩」成田さん。群生するミズの緑が清々しい
右:根の部分が赤い「赤ミズ」。沢の水でさっと洗う手際のよさ

一本漬けの皮むきは、食べながら

一本漬けの皮むきは、食べながら

 塩抜きしたあとで、昆布・だしの素・たかのつめで作った調味液に漬ける。東北の食文化に詳しい食文化研究家の斎藤博之さんによると「塩漬けまたは糠漬けにしてそのまま拭きとって食べる」のが一般家庭では多く、東北の日本海側各地で食べられている。

左上:ミズは束ねて葉を落とし、塩漬けに<br />
右下:塩抜きして、調味液に漬け込む

左上:ミズは束ねて葉を落とし、塩漬けに
右下:塩抜きして、調味液に漬け込む

 赤ジソの実がたくさん入っているのは、「トウ漬け」と呼ばれる漬物。赤ジソの実のことをトウと呼ぶそうだ。ゴボウ・キュウリ・ニンジン・大根など、材料は好みでなんでもよい。塩と醤油で味付けしてあり、ご飯のおかずにぴったりの味だった。

 ネマガリダケはピーラーで皮をむくか、さっとゆでてから竹の子の皮はぎ器を使う。ネマガリダケは収穫時期が半月ほどしかないので、毎日収穫に出かけて皮むきから瓶詰めまでを行なっている。

1:赤ミズは熱湯でゆがくと、赤からきれいな緑色に変わる<br />
2:ワラビのアク抜きは、灰をふりかけて熱湯をかけ、一晩置く

1:赤ミズは熱湯でゆがくと、赤からきれいな緑色に変わる
2:ワラビのアク抜きは、灰をふりかけて熱湯をかけ、一晩置く

3:ネマガリダケは、皮をむく前にさっとゆがく<br />
4:「皮はぎ器」を使うと、面白いようにネマガリダケの皮がむける

3:ネマガリダケは、皮をむく前にさっとゆがく
4:「皮はぎ器」を使うと、面白いようにネマガリダケの皮がむける

1:手前/トウ漬けは、赤ジソの実が入っているのが特徴。奥/ミックス漬け<br />
2:「紅鮭とネマガリダケの飯ずし」は、津軽料理遺産にも認定されている“ご馳走”

1:手前/トウ漬けは、赤ジソの実が入っているのが特徴。奥/ミックス漬け
2:「紅鮭とネマガリダケの飯ずし」は、津軽料理遺産にも認定されている“ご馳走”

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