旧暦10月は、全国の八百万の神々が出雲の国に集まる月。毎年、この時期は日本海側から冷たい北風が吹き、津田かぶの天日干しに向くという。
「宍道湖は汽水湖で多少の塩分を含んでいるので、その冷たい風が乾燥に向いているのかもしれません。通常は、契約農家のみなさんが『はで干し』をしたあとで納入されますが、工場横の湖畔で乾燥させるものもあります」そう話すのは、伊原本店・営業本部長、山根善治さん。同社は1907年の創業以来、目の前に広がる宍道湖の四季折々の自然を感じながら漬物や味噌を作ってきた。「津田かぶ漬」は昔から野菜の少ない冬場の保存食として親しまれていて、昭和初期に商品化されたようだ。
津田かぶとは、江戸時代の津田村(現在の松江市津田地区)で栽培されてきた「勾玉状」の赤かぶのこと。松江市の東側を流れる大橋川沿岸の津田地域は、宍道湖から流れる有機質を豊富に含んだ肥沃な土壌が特徴で、江戸時代には城下で消費する野菜類のほとんどをまかなっていた一大農業生産地だったという。