全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第26回 福島県

取材時期:2012年12月

 福島県の伝統野菜を調べると、水分が多くねっとりとした日本カボチャ、昔ながらのキュウリ、雪の中で越冬させるアサツキ、南会津でしか栽培できない赤カブなど、会津地方に多くの品種が残され、なかには漬物に向く伝統野菜もあった。また、会津発祥といわれている「三五八漬け」を追いかけたら、思ってもみなかった珍しい漬物が現れた。

完成した三五八漬け。手前からカブ、ニンジン、ダイコン。

三五八漬けの漬け床は、密封容器で簡単に作れる。冷蔵庫に入れておく場合は、漬ける時間が長くなる

 東西約140km、南北約100kmに広がる福島県は、北海道・岩手県についで3番目の広さがある。南から北へ連なる阿武隈高地と奥羽山脈によって、大きく3つの地域に分けられる。いわき市を中心とする「浜通り」、福島市を中心とする「中通り」、会津若松市を中心とする「会津」と、それぞれ地域や文化にも違いが見られる。天候の違いも大きく、浜通りで晴れていても、会津では雪が降っていることも珍しくない。

 福島県内で知られている伝統野菜は「会津」に伝えられているものが多い。その理由のひとつとして、夏は高温多湿で昼夜の寒暖差が激しく、冬は雪に覆われる点が挙げられる。四季がはっきりしているので、季節ごとに採れる独自の品種として定着してきたのだろう。もうひとつは、日本でも有数の米どころという点。山の養分を含んだ雪どけ水によって、おいしいお米が育つという。実は、魚沼コシヒカリで有名な新潟県の魚沼地域と会津は隣合わせで、気候も似ているのである。

たくあん用に干してあった大根。干して水分を抜くことで甘みが出る

「地産地消」から「土産土法」へ

 江戸時代中期にまとめられた日本で最初の農業技術書『会津農書』は、会津地方の農業の発展に欠かせなかった。そこに記載されている在来野菜で代表的なのが「会津小菊南瓜(あいづこぎくかぼちゃ)」である。直径15cmほどの大きさで、小菊の花の形に似ているのが名前の由来。「日本の昔ながらのカボチャで、今のカボチャのようにホクホクした感じはありませんが、ねっとりとした食感で、

 ほんのりとした甘さが特徴です。味噌汁に入れるのが定番です。最近、浅漬けにした人がいて、それもおいしかったですね」

 そう話すのは「会津の伝統野菜を守る会」事務局の白井芳之さん。皮が硬いので長期間保存することができるうえ、切り干しにしたり、囲炉裏の上において乾燥させたり、凍み大根のように凍結乾燥させるなど、冬の保存食として大切にされていたという。

昔ながらの日本カボチャのひとつ「会津小菊南瓜」は、茶色の皮が特徴

昔ながらの日本カボチャのひとつ「会津小菊南瓜」は、茶色の皮が特徴

 現在、会津の伝統野菜を守る会で「伝統野菜」として認定しているのは、雪中あさづき、荒久田茎立(あらくだくきたち)、ちりめん茎立、会津地葱、会津丸茄子、会津小菊南瓜、真渡瓜(まくわうり)、慶徳玉葱(けいとくたまねぎ)、かおり枝豆、立牛蒡、舘岩蕪(たていわかぶ)、会津赤筋大根(あいづあかすじだいこん)、アザキ大根、とこいろ青豆、余蒔胡瓜(よまききゅうり)の15品種。

 「地産地消はよく言われますが、会津ではそれを一歩進めて『土産土法』と呼んでいます。その地域で採れた農産物をその地域独自の調理方法で食べるという意味で、栽培から調理法まで、食文化を継承しながら、町おこしに結びつけていきたいですね」

 守る会では、伝統野菜を使ったレシピを募集したり、料理教室を開催したり、各地の伝統野菜を守る会と交流したり、精力的に活動している。伝統野菜を作る生産者はまだ少ないようだが、料理店やレストランなどを生産者に紹介して、地元で食べられる店を増やしていくのが、今後の課題だという。

「会津の伝統野菜を守る会」事務局の白井芳之さん。地元で親しまれてきた伝統野菜の復活に意欲をみせる

「会津の伝統野菜を守る会」事務局の白井芳之さん。地元で親しまれてきた伝統野菜の復活に意欲をみせる

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