奈良時代までは花見といえば梅が一般的だったが、平安時代以降に貴族を中心に桜が愛でられるようになった。民俗
学的には、桜の「サ」は稲の神を示し、五月(さつき=田植をする月)、早苗(さなえ=稲の若い苗)、早乙女(さおとめ=田植えをする女性のこと)の「サ」も同じ意味がある。「クラ」はその神が座る神座(かみくら)を指し、桜には稲の神様が宿るといわれている。そのため農民は豊作を祈願し、桜の花の下で酒宴を催し、歌や舞で神様をもてなして桜が散らないよう祈る。これが花見の始まりという説もある。
日本人の桜に対する思いは文学作品からもうかがえるが、桜餅に使われる桜の葉の塩漬けだけではなく、桜の花の塩漬けもある。桜の花漬けを湯飲みに入れて熱湯を注ぐと、ふわっと広がる花びらが満開の桜を思わせ、優雅な香りが漂う。結納や結婚式などのお祝いの席では「花開く」様子が縁起のよいものとして好まれ、その場だけ取り繕ってごまかす意味の「茶を濁す」ことを忌み嫌うことから、お茶の代わりとして飲まれるようになった。