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第12回 埼玉県

雪のように白い、昔ながらの漬け菜を使った「しゃくし菜漬け」

丸く結球する白菜が普及する昭和初期まで、
日本各地で作られていた「しゃくし菜」。
アブラナ科の一年草で中国が原産地で、
揚子江一帯に栽培されていたものが、明治初期に日本へ伝えられたという。
しゃもじの形に似ていることからその名が付いたそうだが、
秩父ではこの伝統野菜を使った
「しゃくし菜漬け」が作り続けられている。

柔らかさの中にシャキシャキした食感も楽しめる 「しゃくし菜漬け」は、秩父の食生活に欠かせない存在

「しゃくし菜漬け」画像


“純白のしゃもじ”が畑に広がる

しゃくし菜は株元が太く何層にも葉が巻いているため、土が残りやすい

雪白体菜(せっぱくたいさい)の名の通り、雪のように白い

起伏豊かな秩父地方は埼玉県の面積の4分の1を占める。山里で水田は少なく、昔は麦畑や桑畑が広がっていた。男は炭焼き、女は養蚕に精を出し、秩父の風土にあった野菜を育てた。しゃくし菜は結球しない白菜の仲間で漬け物用の菜っ葉として親しまれていたが、白菜が中国から伝わるとしだいに姿を消した。

しゃくし菜畑を案内してくれたのは、農家の冨田繁正さん。周囲では稲刈りが終わり、自然乾燥のためのはざ掛けが見られる。収穫したばかりのしゃくし菜がまぶしいほど白く光って見える。

「体菜の仲間で、品種名は雪白体菜(せっぱくたいさい)といいます。

“純白のしゃもじ”が畑に広がる

しゃくし菜は株元が太く何層にも葉が巻いているため、土が残りやすい

肉厚の白い茎が特徴的で、明治に中国から入ったパクチョイが改良されてできたものみたいですね。形はチンゲンサイに似ていて、それを巨大にした感じでしょうか」

背丈は50〜80センチに育ち、株元が白く太くなり、緑色の部分がふくらんでいて、その姿はたしかに「しゃもじ」に似ている。この葉の形から、匙菜(さじな)、お玉菜(おたまな)、布袋菜(ほていな)などと呼ぶ地域もある。

夏の終わりに牛ふん堆肥を畑にすき込み、トラクターで耕したあとに、しゃくし菜の種をまく。例年は筋状にパラパラとまくのだが、今年は15cm間隔で種を落としたそうだ。

「種まきのぐあいがいちばん難しいんです。たくさん種を落とすと間引きが大変だし、少ないと畑が寂しい感じになってしまうので」

9月初めに種をまいて、2週間前後で間引きして1本立ちにする。農家によっては、

この段階で数本残して、1か月後くらいに1本にする人もいるようだ。その後、追肥を通路にまいたり、土寄せをしたり、虫よけの消毒をしたりして、11月に入って霜が降りるころから収穫が始まる。霜に当てると漬け物にしたときに柔らかく、甘味が出て、繊維が柔らかくなるらしい。収穫したしゃくし菜は5kgの束にして畑の隅に積んでおくと、農協が集荷してくれる。

しゃくし菜は葉がしっかりしていて、漬け物にするとシャキシャキした歯ごたえが残り、緑色があせない点でも人気がある。秩父地方では、自家用のしゃくし菜漬けを樽で仕込んでいる家もまだ多い。

「昔は冬に漬けたものを春まで置いて、べっこう色になったしゃくし菜を油で炒めて食べてましたよ。塩抜きしてから刻んで、唐辛子を入れるとおいしいですね」

古漬けのしゃくし菜漬けは、刻んで油炒めにしてもおいしい。 味付けは砂糖、しょうゆ、酒、ごま油、鷹の爪で


当たり前だった漬物を 秩父のお土産に

「昔はもっとしょっぱかったんですよ。海苔の代わりにしゃくし菜漬けの葉っぱでご飯を包んで、おむすびにしたのがきこりの弁当

家庭で漬けられていたしゃくし菜漬けが初めて商品化されたのは昭和41年のこと。軌道に乗るまでには試行錯誤があった

でした」

そう話すのは、石川漬物の石川幸次さん。その昔、会社員をしていた石川さんは、キュウリが豊作で土手にたくさん捨てられているのに心を痛め、これで漬物を作ったらどうかと思いつく。漬物メーカーに転職して勉強を重ね、地元に戻って1963年に独立し創業する。

味付けキュウリの販売からスタートし、3年後にしゃしく菜漬けを商品化した。

「地元の農家では当たり前に作って食べていたので、あんなものを売ってると笑われました。実際、ほとんど売れずに苦労しましたね。しばらくすると西武線が秩父まで開通したので、少しずつお土産物として知られるようになりました」

市場に安い値段で卸しても、しゃくし菜漬けは売れなかったそうだ。商品化して数年は赤字続きだったが、袋を細長くしたら急に売れるようになった。しゃくし菜の立派な姿がそのまま袋に詰められているのを見て、手に取る人が増えたのかもしれない。

しゃくし菜を生産している農家は、JAを通して入荷する約40軒、個人で契約しているのが約20軒ある。多いときには1日50トンものしゃくし菜がトラックで運び込まれる。しゃくし菜に約5〜6%の塩と水をかけて重しをして、10日から15日間、塩のしみぐあいを見ながら調整する。

下漬けが終わったあと、しゃくし菜と少量の塩を交互に重ねて漬け替える。このとき、容器に袋を二重にして、空気を抜いて

株元に土が残らないよう、何度も丁寧に洗う。洗浄が一番大事な工程

から窒素ガスを入れる。何度か繰り返しながら完全に空気を抜いておくと、うす塩の状態で1年は保存できるという。

下漬けが終わったものは、一度機械でていねいに洗って、調味液に入れる。冷蔵庫で保存しながら、3〜4日間(長くて1週間)で本漬けに進む。

「しゃくし菜は株元が大きくて、しかも何重にも葉が巻いているので土が残りやすく、洗うのが大変なんです。機械で洗ったあと、手洗いで細かい汚れやゴミを落とし、ばっ気と呼ぶ気泡を使った洗浄機でまた洗い、最後にベルト式の機械で仕上げ洗いをします」

丁寧に洗ったあとで、調味液を入れて袋詰めされる。風味づけに少し醤油が加えられているが、基本的には塩漬けといっていいだろう。


しゃくし菜漬けを使った創作料理

秩父の家庭ではどうやってしゃくし菜漬けを作っているのだろうか?埼玉県では、地元農産物の普及、農業・農村の振興を目的として、郷土料理や伝統食を地域に残し伝えていこうと「ふるさとの味伝承士」を認定している。そのうちのひとりである黒沢政子さんのお宅を訪ねてみた。

「一般的に塩分濃度は3〜5%ですね。30kgのしゃくし菜に対して、1kgの塩が目安です。しゃくし菜を詰めて塩をふる作業を繰り返します。このとき、すき間が空かないようにぎっちり詰めるのがポイントです」

最後に唐辛子を好みで入れて、ふたをして重しをしておく。重しが重すぎると漬けあがりが固くなるので、水が上がってきたら重しを軽くしていく。しゃくし菜が水で隠れていないと失敗するので、様子を見ながら重さを調整する。

「一晩で3分の1くらいのかさになるんですよ。3日くらいすると水が上がってきます。11月の勤労感謝の日までに漬け込んで、年末から正月にかけて完成します。

唐辛子は傷まないために入れたほうがよく、香ばしさを出すために米ぬかを加える人もいますね」

大きなしゃくし菜から順に、四角い容器に塩と鷹の爪 を振りながら重ねていく。すき間なくギュッと押しなが ら行うのがポイント

2009年1月に埼玉県やJA、漬け物業者などで作る協議会が主催して「秩父しゃくし菜料理コンテスト」が開催された。72人・127点の「しゃくし菜の漬け物」を使った

「秩父しゃくし菜料理コンテスト」でグランプリを受賞した 『しゃくし菜の油揚げ包み焼き』

料理が集まり、グランプリを受賞したのが「しゃくし菜の油揚げ包み焼き」で、この料理を考案したのが黒沢政子さんである。しゃくし菜漬けを刻んで鶏ひき肉と長ネギと混ぜ、油揚げに挟んでフライパンで焼く。しゃくし菜のシャキシャキした歯ごたえが玉ネギのような食感になり、なんともいえない味わいだった。


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