

雲仙こぶ高菜はアブラナ科の高菜の仲間。高菜は中国から伝わってきた野菜で、九州を中心に漬物の食材として栽培されている。吾妻町で種苗店を営んでいた峰真直さん(故人)が戦後、中国からこぶ高菜の種を持ち帰り、長崎の風土や食文化に適するように改良した固定種である。大きな株を手で開くと、葉の内側の一枚ごとに親指大の白いこぶが見える。この部分がとくに柔らかく甘味がある。
ところが、こぶの形が逆に出来の悪い野菜と見られたり、そのあとに育成された三池高菜などに比べて収穫量が少なく、アブラナ科の野菜なので同じ仲間と交配しやすいこともあり、しだいに栽培されなくなってしまった。

雲仙こぶ高菜復活のきっかけになったのが、自家採種を中心とした有機農業に取り組んでいる岩崎政利さん。60~70種類の種を保存している自家採種のエキスパートだ。父が雲仙こぶ高菜を作っていたのは知っていたが、自分では栽培したことがない。けれども、農業高校に通っていたころに、峰さんの畑を見学したことを思い出す。種を探すうちに、峰さんの奥さんが家庭菜園で大事に育てていたことがわかったが、ほかのアブラナ科と交雑が進んでいた。
「私が高校生のときに見た姿とはだいぶ違い、一般の高菜のような苦みもありました。これを昔のこぶ高菜に近づけよう。それができるのは、原種の姿を峰さんから教えられた私だけではないだろうか? そう考えると、運命的な出会いだったのかもしれません」
自家採種のノウハウはすでにある。岩崎さんはかつての姿を思い浮かべながら選抜・採種を繰り返し、5年くらいで理想の姿に戻すことができたという。こぶが出る部分は幅広で、根元の茎はさらに幅が狭くて短いのが理想的。こぶの位置は低いほうがおいしいという。なぜこぶが出るのか理由はわからないが、岩崎さんは中国で高菜とザーサイが交配したのではないかと考えている。シャキシャキ感があり、油を使った料理が向く点も、ザーサイと共通点があるようだ。
雲仙こぶ高菜は春まきと秋まきが可能だが、春まきはあまり大きく育たずにこぶも出ない。9月中旬に種をまいて、10月から3月ごろまで収穫したものが浅漬けや本漬けに加工されるが、年内はこぶが出ることはなく、寒くなった1~2月ごろからこぶが出る。


2003年7月、岩崎さんをはじめとした地元の生産者、農産加工組合、県の農業改良普及センター、吾妻町役場(現:雲仙市役所)、JA等が集まって「雲仙こぶ高菜再生プロジェクトチーム」が結成された。その販売・普及活動の中心になっているのが、農事組合法人守山女性部加工組合の代表・馬場節枝さん。
「最初は、どうしていまさら高菜の加工に取り組まなければいけないんだと思いました。だって、どこの家庭でも庭先で栽培して漬物にしていたんですから。でも、雲仙こぶ高菜を食べてびっくり。アクがないので生で食べられるし、キャベツやほうれん草などと同じように油炒めなどにも向くので、これまでの高菜とまったく違うことがわかりました」
守山女性部加工組合のメンバー10名は、それぞれアイデアを持ち寄って、雲仙こぶ高菜を使ったレシピを開発。農林水産省主催「食アメニティコンテスト」優秀賞(平成18年度)に選 ばれた雲仙こぶ高菜まんじゅうのほか、巻き寿司、白和え、がんもどきなど、50種類近いメニューがある。

守山女性部加工組合では、雲仙こぶ高菜を使った漬物を3種類作っている。収穫した雲仙こぶ高菜は畑で半日ほど置いておくと、しんなりして漬けやすくなるそうだ。水洗いした葉を塩水に浸し、手で軽く押しながら樽に詰めていく。隙間がないように重ねていくが、こぶが出てかさばるので、腕の見せどころである。
生の葉の4倍ほどの重しをのせて、翌日の夕方に一度軽くもむ。水分が上がるのを見ながら重しを調節し、4日目ごろから浅漬けとして食べられる。
本漬けにする場合は1か月後に漬け替え、塩を加えながら本漬けに進む。 2回ほど漬け替えながら3~4か月で「雲仙こぶ高菜漬け(本漬け)」が完成。刻み高菜を、五島の椿油で炒め、有機


栽培の丸大豆醤油と素焚糖(すだきとう)で味付けしたものが「雲仙こぶ高菜炒め物」になる。漬物としてそのまま食べてもいいし、パスタのソースに混ぜたり、魚や肉料理に使うこともできる。
「雲仙こぶ高菜の生産者のみなさんは、本物を追求しています。ですから、それを伝える私たちも本物を追求しなければいけません。高菜まんじゅうの具には、五島の椿油、平戸の釜炊き塩、有機醤油を使って、無添加で作っています」
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この再生プロジェクトは伝統食を守るイタリアのスローフード協会国際本部に認められ、2005年に食の世界遺産「味の箱舟」に選ばれ、さらに2008年には最高位である「プレシディオ」に日本で初めて認定された。 プレシディオはラテン語で「守る」、イタリア語では「砦」という意味があり、スローフード協会が販売方法を企画・助言し、小さな生産者や加工業者が作る伝統的な食品の市場進出を促す目的で始まった。「味の箱舟」に登録された 500種以上(日本は22品目)の食材のうち約200種が「プレシディオ」に指定されている。
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「次の目標は、生産者の顔が見えるレストランを作りたいと思っています。ただ食事できるだけでなく、農家と交流できるような場所にしたいですね。生産者のがんばりを伝えていきたいし、食べる人だけでなく、伝統野菜を作って守ってくれる人も育てたい」
パワフルな馬場さん自身のキャッチフレーズは「動く世界遺産」。2008年、再生プロジェクトは「雲仙市伝統野菜を守り育(はぐく)む会」に進化し、10種類ほどある長崎の伝統野菜の復興に取り組み始めている。
