


里芋の種類は、芋部分を食べる子芋用と親芋用、茎部分を食べる葉柄用、芋と茎の両方を食べる兼用がある。一般に売られている里芋は子芋用の品種なので茎は食べないが、八つ頭や海老芋と呼ばれる兼用品種は芋のほかに茎も利用されている。
また、葉柄専用の蓮芋(はすいも)の茎を「ずいき」というが、地域によって兼用品種の茎のことも「ずいき」と呼んでおり、それを乾燥させた「いもがら」も流通している。いもがらは煮物に
したり味噌汁の具に使われる。里芋の茎や芋がらを利用した漬物は各地にあり、主に甘酢漬けにされている。
三重県の南、北牟婁郡紀北町海山区(旧海山町)では、昔ながらのくき漬けが作り続けられている。八つ頭の茎を利用した漬物は鮮やかな赤色で、さわやかな酸味とシャキシャキした歯触りが特徴。
「八つ頭は、このへんでは『八つ口』と呼んでいます。茎を利用するときは赤色のものがえぐ味がなくておいしいですね。漬け込むときに葉っぱが入ると色が青くなってしまうので、収穫したら切り落とします」

農家の川端浩之さんは、収穫の手を休めることなく教えてくれた。葉を切り落とした茎は水洗いし、仮漬け用の細長い容器に並べ、茎の重量10kgに対して塩100gの割合で塩を振り、茎を転がしてなじませる。最後にふたをして、茎の重量の3倍の重しをして1日置いておく。

「仮漬けで水気を抜いてから、本漬けで紫蘇から出た汁を吸わせると、いい色になって味もよくなるんですよ」
そう話すのは、ときどき漁も行なうという農家の川端光さん。仮漬けのときに出た水分を捨ててから、本漬けを行なう。収穫した紫蘇(赤ちりめん紫蘇)は葉をこそげ取り、洗ってから軽く搾って水気を切ってから、塩でもんでアク出しをする。これを2回ほど繰り返し、ほぐしてから梅酢を


少し加えると、さらにきれいな赤色になった。
本漬け用の桶の底に少し塩を振り、仮漬けの終わった茎を並べる。茎の間に紫蘇と塩を振りながら、交差するように漬け込んでいく。仮漬けした茎10kgに対して、塩もみした紫蘇1kgの割合で漬ける。
漬け終わったら中ぶたをのせ、重しをのせて5日ほど置く。重しは茎の重量の3倍が基本だが、茎が太い場合は少し重めにする。
桶の底のほうは漬かりにくいので、2日目くらいで上下を混ぜて茎を返すとよく仕上がる。
「桶に手を入れて返してもいいんですが、空の桶を用意してほぐしながら移すとよく混ざるんですよ。つけ汁が上がってきたら、茎が浸るていどに徐々に重しを軽くしていきます」


漬けあがった桶を見せてもらうと、木のふたの周囲に薄紫色のカビが付着していた。川端さんによると、このカビが出ないと味がよくないので、発酵したつけ汁を次に漬け込むときに加えることもあるそうだ。


出来上がったくき漬けは皮をむいてから細かく刻み、生節やおろし生姜を混ぜて、醤油を少し加えて食べる。小さなカツオをゆでて身をほぐしたものと混ぜるのもおすすめの食べ方。くき漬けの甘酸っぱさと魚のうまみが相乗効果になり、「おかずなしで、茶碗2杯は食べられる」と川端さんは笑う。子どもたちも、ご飯の上が真っ赤になるくらいくき漬けをのせるらしい。

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8月21日、漬物の神様を祭る萱津(かやづ)神社に向かった。名古屋から車でほど近い距離にある萱津神社の祭神は農耕の神様・鹿屋野比売(カヤヌヒメ)神。神社のある周辺は肥沃な土地で野菜が豊富に収穫でき、海が近かったことで塩づくりも盛んだったという。
初成りのナスやウリに塩を添えて神前に供えていたが、腐ってしまうのを惜しんだ氏子が供物をかめに入れてみた。すると、ほどよい塩漬けの野菜が出来上がったと伝えられる。以来、この地方の人々は漬物を万病を治すお守りとして信仰してきた。
境内には全国から寄進された漬物が販売
されているほか、昨年の香の物祭のときに漬けたものも縁起物として分けられている。刻んである漬物を口にしてみると、かなり塩辛い。実際にはそのまま食べるのではなく、お湯で塩抜きをしたり、細かく刻んでお茶漬けにして味わう。漬物関係者はこれを持ち帰り、神棚にお供えするという。
午後2時、花火の合図で社務所から行列が出発する。払い所で祝詞をあげ、正面の鳥居から石段を降りて本殿に進む。上萱津、中萱津、下萱津から野菜の献上物が運び込まれる。白装束を着ている人たちをはじめ、行列をなしているのは全国から集まった漬物関係者のようだ。本殿では、宮司による祭事や巫女の踊りなどが行なわれ、境内の奥にある「香の物殿」に移動する。


漬物祖神を祭る「香の物殿」は、茶室を思わせる茅葺きの庵である。入り口手前には石造りの樽が置かれ、その上にはしめ縄を巻いた漬物石がのっている。香の物殿の内部には御幣が巻かれたかめが並んでいた。
その手前にはウリ、ナス、大根、白菜などの



野菜が積み上げられ、漬込神事が行なわれるのを待っている。いちばん上にあるのは「蓼(たで)」という草。「蓼食う虫も好きずき」ということわざがあるように、虫よけ効果を期待して入れるそうだ。
熱田神宮から来た斎主(さいしゅ)が祝詞をあげたあと、神
職、来賓、世話役の順に、香の物殿の中にあるかめに野菜と塩を漬け込んでいく。集まった人たちも列に並んで漬込神事に参加している。
「ただ漬け込むといっても思い思いに野菜と塩を入れていくだけなので、神事が終わった翌日、野菜ごとに分けてあらためて漬け直します」
この日、説明をしてくれた祢宜の青木知治さんによると、こうやって漬け込んだものは、年に4回、熱田神宮に献進しているほか、翌年の香の物祭で配布されるという。
その昔、日本武尊が東征の道すがら萱津神社に立ち寄ったときに、村人がこの漬物を献上したところ、感動した日本武尊は「藪ニ神物」(やぶにこうのもの)と称えたと伝えられ、このことから漬物を「香の物」とも書くようにもなったという。 萱津神社は縁結びの神社でもある。 漬物のルーツに思いをはせながら、一度参拝してみてはどうだろうか。