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第15回 神奈川県

春の香りと色あいを楽しむ「桜の花漬け」

八重桜を塩と梅酢に漬けた「桜の花漬け」は、結婚式や卒業式などのおめでたい席で桜湯(桜茶)として用いられるほか、あんぱんの上にのせられていたり、桜ご飯、おにぎり、お吸い物などにも合う。信州や京都でも作られているが、日本で加工されている桜の花漬の8割近くが神奈川県で生産されていると聞き、主産地である秦野市と小田原市を訪ねた。

「桜の花漬け」画像

仕上げに塩をまぶさずに漬けられた、桜の花漬け


上/お祝いの席で振舞われる桜湯(桜茶)下/桜の花漬けに使われる、赤みの強い八重桜

奈良時代までは花見といえば梅が一般的だったが、平安時代以降に貴族を中心に桜が愛でられるようになった。民俗学的には、桜の「サ」は稲の神を示し、五月(さつき=田植をする月)、早苗(さなえ=稲の若い苗)、早乙女(さおとめ=田植えをする女性のこと)の「サ」も同じ意味がある。「クラ」はその神が座る神座(かみくら)を指し、桜には稲の神様が宿るといわれている。そのため農民は豊作を祈願し、桜の花の下で酒宴を催し、歌や舞で神様をもてなして桜が散らないよう祈る。これが花見の始まりという説もある。

日本人の桜に対する思いは文学作品からもうかがえるが、桜餅に使われる桜の葉の塩漬けだけではなく、桜の花の塩漬けもある。桜の花漬けを湯飲みに入れて熱湯を注ぐと、ふわっと広がる花びらが満開の桜を思わせ、優雅な香りが漂う。結納や結婚式などのお祝いの席では「花開く」様子が縁起のよいものとして好まれ、その場だけ取り繕ってごまかす意味の「茶を濁す」ことを忌み嫌うことから、お茶の代わりとして飲まれるようになった。

平安時代に貴族から武士へと花見の文化が広がり、江戸時代には庶民も桜を楽しむようになって栽培技術も向上し、江戸後期には桜の品種が300以上あったらしい。ちなみに、江戸の染井村(現在の豊島区駒込)で品種改良されて生まれたのが「ソメイヨシノ(染井吉野)」である。

「桜の花漬けに使うのは、花びらが多い八重桜です。花の色が赤いもの、ピンク色のもの、白いものがありますが、赤い花がいちばん仕上がりがきれいですね。白い花と比べると、赤い花のほうが出荷価格も4倍くらい高くなってます」

そう説明するのは、秦野市で農園を営む諸星洋子さん。八重桜にもたくさんの種類があり、桜の花の塩漬けとして主に使われているのは「関山(かんざん)」という品種。桜の花漬けには3〜5分咲きのものが使われるため、4月中旬ごろに摘み取りが始まる。農家で摘み取られた桜の花は小田原市内の漬物業者に引き取られて加工されるが、農家でも少量の加工は行なっており、地域の特産物として農家の直売所や農協で販売されている。

自宅の庭から生まれるおもてなしの心

神奈川県秦野市では江戸時代末期から桜の花漬けの生産が始まり、国内の約8割を生産しているという。花摘みは時間との戦いで、適期になれば雨の日も風の日も関係なく行なわれる。木によってタイミングが異なるうえ、2日間くらいでパッと満開になって散ってしまうこともあるそうだ。

摘み取った花は、根元のがくをひとつずつ手で取り除く。その理由は、歯触りや見栄えが悪くなるからで、花のアクが出て指先が真っ黒になるほど根気のいる作業だ。諸星さんのお宅の庭先で花を摘み取り、桜の花漬けの作り方を教わった。

花が開きすぎると漬けたときにバラバラになってしまうため、収穫はタイミングが命

自宅の庭から生まれるおもてなしの心

花びら500グラムに対して、白梅酢500cc、塩100gが基本。白梅酢とは、赤紫蘇を使っていない梅干しから出た梅酢で、諸星さんのお宅では、自家栽培の無農薬の梅を使って14%の塩分濃度で作っているそうだ。

漬け込む容器に花と塩を交互に入れ、最後に白梅酢を注ぎ、重しをして密閉する。

摘み取った花は、がくを丁寧に取り除く。歯ざわりよく綺麗に仕上げるための大切な工程

1週間から10日後に、ほぐしながら天地返しをして漬け替える。さらに2日くらいで梅酢がピンク色になったら漬け汁を搾り、ザルに

広げて半日程度、半日陰で干す。

「日なたに干したり、1日置いてしまうと、パラパラに乾燥して色が薄くなってしまうので、少し湿り気が残るくらいにします」

口の閉まるビニール袋や広口ビンで保存できるが、日に当たると黒くなってしまうらしい。冷蔵庫で保存しておけば、1年以上経っても、お湯を入れるときれいなピンク色になる。諸星さんは毎年7〜8キロ作って、野菜室に入れてあるそうだ。

陰干ししたあとにさらに塩をまぶす作り方もあるが、諸星さんの作り方だと使うときに塩出ししなくてもいい。密閉して冷蔵保存することで、塩分も少なくてすみ、殺菌の必要もないようだ。

諸星さんは、桜の花漬けを使った料理をたくさん用意してくれた。桜湯はもちろん桜ゼリー、桜クッキー、桜寿司、桜ごはん、吸い物など。

1.花びら、白梅酢、塩を計量する 2.がくを取り除いた花を水洗いし、半日程度干す(写真提供:諸星様) 3.容器に花と塩を交互に重ねる 4.白梅酢を静かに注ぎ入れ、重しをする

桜の花漬けを使った多彩な料理。手前から「桜ロール」「桜寿司」「桜ごはん」「お吸い物」

なかでも落花生あん入り桜ロールは自慢の一品。もち米とうるち米を3対2の割合で固めに炊き、すだれにラップを敷いてから桜の花漬け、ご飯、落花生あんをのせて巻き寿司型にする。秦野市は落花生の産地でも

あり、ゆでた落花生あんをつぶして砂糖と醤油で味付けしてある。



創業70年以上の伝統を守って

その後、小田原市に移動して、古くから桜の花漬けを作っている丸福食品を訪ねた。創業は70年以上前のこと。社長の伊藤弘さん

契約農家から集荷した桜の花はまず梅酢で洗浄(青い容器)し、水気を搾る

の父・福三郎さんが結婚を機に独立したそうで、それ以前から代々漬物業を営んできた家系だ。

「前川地区には桜の花漬けの業者が多かったんですが、昭和20年の火災で全焼してしまったんです。今も漬けているのは5軒くらいかもしれません」

丸福食品では、飽和食塩水と同じ塩分濃度(約23%)の梅酢に花を浸して洗い、それを搾りながら、花と塩を交互に樽に入れて押しながら漬け込んでいた。

創業70年以上の伝統を守って

翌日に漬け替え、このときに枝や葉、がくなどの異物をていねいに取り除きながら、何度か漬け替えを行なう。漬け込むときの塩分量は目分量で、仕上がりも色合いなどを見た目で判断するという職人技である。

塩漬けした花びらは搾って水分を切り、花をほぐすために適量の塩を混ぜ込んで完成。梅酢の塩分が薄い場合は、陰干しするなどして濃度を上げる必要があるのかもし

花と塩を交互に樽に入れ、漬け込む(白い容器)。翌日の漬け替えで、がくなどを取り除く

れないが、丸福食品では陰干しはしないそうだ。これまでに見たことがある桜の花漬けは、もっと

塩がたくさんまぶしてあったので、ちょっと意外だった。

「この作り方が代々教えられてきたものなのです。仕上がりに塩を足してくれと言われることもありますが、私どもは昔ながらのスタイルを守っています。梅酢の塩分も、このくらい濃くないと花びらがきれいに分かれないんですよね」

昔ながらの製法でつくられた、丸福食品の桜の花の塩漬け

小田原の名産品でもある梅干しは、丸福食品でも人気商品である。梅干しを自社生産しているので梅酢もできる。梅干し作りと桜の花漬けは、切っても切れない関係にあるようだ。


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