全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第6回 香川県

取材時期:2008年10月

オリーブ栽培の本場は地中海沿岸だが、日本では小豆島がオリーブの産地なのはご存じだろうか? 小豆島でオリーブ栽培が始まって100年目を迎え、改めて注目を集めている。9月下旬から11月中旬の期間限定で青い実を塩漬けにした「オリーブの新漬け」が作られると聞き、小豆島を訪ねてみた。

 高松市の北東23キロメートルの瀬戸内海に位置する小豆島は、平均気温15度、年間降水量1200ミリメートルほどで、代表的な瀬戸内式気候の島である。小豆島がオリーブの産地として成功した理由は、この気候・風土が地中海沿岸とよく似ていたからといわれている。ちなみに香川県の県花・県木はいずれもオリーブになっている。

 日本に初めてオリーブが持ち込まれたのは約400年前といわれるが、幾度かの試験栽培を経たのち、明治41年に本格的な栽培が始まった。日露戦争後、北方海域に広大な漁場を獲得した日本は、魚介類の保存・輸送の手段として油漬けを奨励。オリーブオイルを国内自給する目的で三重・香川(小豆島)・鹿児島で試験植樹を行ない、小豆島だけが栽培に成功する。昭和41年までの58年間は農林省の補助・直轄として栽培に取り組み、その後も香川県の単独事業として継続されている。その間、苛性ソーダで渋抜きして塩蔵するテーブルオリーブスを作ったり、挿し木による育苗法を開発したり、さまざまな研究が行なわれた。

 全盛期の昭和39年には130ヘクタールの面積で400トンの収穫を上げたものの、その5年前にはオリーブ製品の輸入自由化が始まっていた。安価なオリーブオイルやテーブルオリーブスが大量に輸入され、オリーブ農家は打撃を受けて国内の生産は激減。昭和60年代には34ヘクタールに減少してしまった。

小豆島産の「オリーブの新漬け」 限定品のため、毎年楽しみに待つ人も多い

左:オリーブ栽培の盛んな地中海沿岸とよく似た気候風土の小豆島
右:「新漬け」用には、実が緑色の11月中旬までに収穫する

新漬けは、小豆島産オリーブの救世主

 「それまでのテーブルオリーブスは完熟した黒い実を使ったもので、“渋”を残して乳酸発酵させ、ピクルス状にするのが普通で、クセのある味のため日本人には好き嫌いがあった。そこで、まだ青い実を使って、日本人好みのオリーブの新漬けを商品化したのです。塩分濃度は34%で、和食にも合う味になりました」

 そう話すのは、東洋オリーブ(株)顧問の柴田隆さん。オリーブ栽培と商品化に携わって半世紀を数えるベテランだ。柴田さん自身もオリーブ畑を50アール、ミカン畑50アールを栽培しているという。

 新漬けのオリーブが少しずつ知られるようになるにつれ、島内の生産も着実に増えてきた。逆に今は国内産・小豆島産のオリーブは貴重な高級品だ。数年前からオリーブの新漬けは期間限定の発売になり、生産量が追いつかないほど人気がある。

 世界には1000種以上のオリーブがあるようだが、小豆島で栽培されている代表的なオリーブは4品種。90%の主流品種である「ミッション」は果実加工用と油用の兼用種。果実に歯ごたえがあるため、新漬けの人気品種になっている。「マンザニロ」は世界でもっとも多く栽培されている品種で、果肉が柔らかく粒が大きくて果実加工用に最適。「ルッカ」は一時は香川県の奨励品種になったオイル専用種である。「ネバディロ・ブランコ」は花粉が多いため受粉樹として利用されている。オリーブはほかの品種の花粉でないと受精・結実しにくい性質を持っているため、一割程度の割合で他品種を混植するようにしている。

 オリーブの苗は小豆島町が育成し、年間5000本を頒布している。11月に挿し木で育苗すると、翌年3月に新芽が出る。これをポットに移植して1~2年育てるそうだ。3年間育てた苗を畑に定植し、2年後から収穫ができるようになる。

ポットに植えられたオリーブの苗木

ポットに植えられたオリーブの苗木

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手摘みで農家の生活を支える

 オリーブの収穫は9月下旬から始まり、12月中にはほぼ全てを終える。新漬け用には、11月中旬までの実が緑色のうちに、11月頃からの赤紫や黒紫色に熟した実はオイル用に収穫される。果実を手の中に優しく包み込むようにして、病気の果実や傷のついた果実などを選別しながら、ひと粒ずつ手摘みする。油用の果実も品質に影響するため、同じように手摘みで収穫するようだ。

実を傷つけないよう、収穫はひとつひとつ手摘みで行う

実を傷つけないよう、収穫はひとつひとつ手摘みで行う

 「小豆島では、ミカンの出荷価格は1キロあたり約200円にしかならないのに、新漬けに使う手摘みのオリーブは1キロ約1200円と高値で引き取ってもらえます。油用でも1キロ約600円。島内には年金生活をしている高齢者も多く、夫婦二人でできる規模でも、丁寧に手摘みすればそれなりの収入になるんですよ」

 柴田さんは、あくまでも農家の立場で栽培指導に当たっている。特に小豆島は、高齢者が多いこともあって、今年の収穫にどう影響するのかを重視しているという。木の剪定にしても、実が成る前に伐らずに、収穫後に行なうように指導している。次の課題は、小豆島の栽培条件に合った品種を探して収穫時期を分散することらしい。

熟した実はオイル用に収穫される

熟した実はオイル用に収穫される

しだいに濃度を上げて漬けていく

 その後、オリーブの新漬け法を教えてもらうため、高橋農園に案内してもらった。高橋正道さんは、小豆島オリーブに30年、東洋オリーブに10年勤めた、オリーブの専門家。30アールのオリーブ畑を持ち、独立して新漬けを作り始めて2年目だという。

 昼に収穫したオリーブを選別して、夕方から新漬けの作業を行なう。最初に2%の苛性ソーダ液に浸して渋抜きをする。押しぶたをして12時間置き、包丁で切って種の際が白くならなくなれば完了だ。

 次に朝昼晩の3回、水洗いする。このとき、果実が空気に触れると酸化して黒ずんでしまうので、漬け樽の底にホースを入れて水を入れ替える。24時間後、再び水洗いしたのち、今度は2%の塩水に2昼夜漬ける。一度に高濃度の塩水に漬けると浸透圧で果実がしおれてしまうので、同じように4%の塩水で2昼夜、6%の塩水で2昼夜と徐々に濃度を上げていく。最後に1%の塩水で袋詰めして1昼夜置くと、塩分濃度が3%前後に落ち着くようだ。

高橋農園での漬け込みの様子

高橋農園での漬け込みの様子

 「島内で販売するときはこのままですが、島外へ出荷するときは袋詰めのあとに加熱殺菌して水で急冷します。本当は加工してすぐに食べたほうがおいしいんですが…」

 殺菌しなくても冷蔵庫に入れれば2か月は持つそうだが、やはり漬けたてと比べると味は落ちるらしい。柴田さんも高橋さんも、子どものころは 「おやつ代わりに丼いっぱい食べた」と話す。消化によく、栄養もあるため、いくら食べても怒られなかったそうだ。オリーブの新漬けは、お弁当の中にも必ず1〜2粒入っていたというほど、小豆島の人たちに親しまれている漬け物なのだ。

東洋オリーブの漬け込み風景。加工所の室温は20℃に保たれている

東洋オリーブの漬け込み風景。加工所の室温は20℃に保たれている

※取材記事は漬物文化の啓発活動であり、販売目的ではございません。
そのため、連絡先の掲載は差し控えさせていただいておりますこと、ご理解並びにご了承くださいませ。

※掲載内容は取材時の情報です。

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