全国漬物探訪

各地で伝え育まれてきた漬物を訪ね歩く

東海漬物

第49回 宮崎県

取材時期:2023年5月

宮崎の伝統野菜が、存続の危機に瀕している。かつては県内の農家がこぞって栽培し、地元の民謡「いもがらぼくと」にも謡われ、『日向かぼちゃ』の愛称で親しまれてきた『黒皮かぼちゃ』だ。最盛期には全国に出荷されていたが、西洋かぼちゃの台頭もあり年々生産者が減少している。そんななか、伝統を守るため栽培を続ける生産者と、その伝統を“漬物”というかたちで残したいと奮闘する地元企業の取り組みを追った。

コリコリとした黒皮かぼちゃの食感と味噌の風味が魅力。
ご飯のおともにもお酒のアテにもおすすめ。

100年の歴史を誇る宮崎伝統の『黒皮かぼちゃ』

 『黒皮かぼちゃ』とは日本かぼちゃの一種で、西洋かぼちゃに比べて煮崩れしにくいのが特徴だ。宮崎におけるかぼちゃ栽培の歴史は古く、農林水産省のホームページによると、宮崎市で初めてかぼちゃが栽培されたのは明治40年(1907年)のこと。黒皮かぼちゃは大正13年(1924年)に千葉県から導入され、温暖な気候と日照時間の長さが栽培に適していたこともあり、宮崎県は黒皮かぼちゃの一大産地となった。

 宮崎で栽培される黒皮かぼちゃは、黒々と輝くゴツゴツとした肌が特徴。存在感のある見た目とはうらはらに、上品な甘さときめ細やかな実の食感が、今でも京都をはじめとする高級料亭などで重宝されている。

 最盛期には何百軒という農家が栽培をしていた黒皮かぼちゃだが、現在は数軒にまで減少している。生産者の高齢化、そして栽培に手間がかかるにもかかわらず収穫量が少なく、採算が取れなくなってきているのが大きな理由である。

黒皮かぼちゃの蔓がのびのびと広がる畑。6月は年内最後の収穫<br />
期となる。

黒皮かぼちゃの蔓がのびのびと広がる畑。6月は年内最後の収穫
期となる。

 今回は、宮崎市内で露地栽培を行っている山﨑重光さんの畑に伺った。九州地方の梅雨入りが発表されて間もない5月下旬、住宅地の一角にある15アールほどの畑には、のびのびと蔓を伸ばした黒皮かぼちゃの葉が、青々と一面に広がっていた。

 山﨑さんは5年前、70歳の時に両親から黒皮かぼちゃの栽培を引き継いだ。 かつては一面かぼちゃ畑だったという周辺には住宅が建ち並び、いまではこの地域で栽培を続けているのは山﨑さんのみとなっている。「とにかく、手がかかるんです。そのわりに収穫量が少ないから、ほかの野菜に転作した農家さんも多い」と話す山﨑さん。それでもなお、今もこの地で栽培を続ける黒皮かぼちゃについてお話を聞いた。

左:数少ない黒皮かぼちゃの生産者、山﨑重光さん。両親の跡を継いで宮崎の伝統野菜を守り続けている。<br />
右:爽やかな甘さが魅力の黒皮かぼちゃ。煮物はもちろんカレーやシチューに入れても美味しい。

左:数少ない黒皮かぼちゃの生産者、山﨑重光さん。両親の跡を継いで宮崎の伝統野菜を守り続けている。
右:爽やかな甘さが魅力の黒皮かぼちゃ。煮物はもちろんカレーやシチューに入れても美味しい。

育苗から収穫まで手間ひま惜しまず育て上げる

 黒皮かぼちゃの栽培は、苗を育てるところから始まる。1月下旬に種を蒔き、ビニールハウスで1000本ほどの苗を育てたら、35日から40日後に畑に定植する。伸びていく蔓は、重ならないように誘導したり、脇芽を摘んだりと手入れが欠かせない。「種を蒔いてから収穫まで、つきっきりですよ」と山﨑さんは笑う。山﨑さんはひとつの苗から2本の蔓を這わせる「二本仕立て」で栽培する。1本の蔓につき実をつけるのはひとつのため、同時に育つ実は1本の苗から2つまでだ。完熟して収穫するまでは次の実はつかないため、どうしても収穫量が少なくなる。

 花が咲く時期には早朝5時から手作業で受粉させ、ある程度の大きさに育ったら「ザブトン」とよばれるシートを敷く。これによって地面に接している部分にも日光が当たり、まんべんなく色づくのだそう。

左:受粉に成功した黒皮かぼちゃの実。ここから収穫できるようになるまでに30日ほどかかる。<br />
右:まんべんなくきれいな色が付くようにシートを敷く。実と藁がこすれて傷がつくのを防止する役目も。

左:受粉に成功した黒皮かぼちゃの実。ここから収穫できるようになるまでに30日ほどかかる。
右:まんべんなくきれいな色が付くようにシートを敷く。実と藁がこすれて傷がつくのを防止する役目も。

 収穫間近の完熟した黒皮かぼちゃを見せていただいた。全体に白い粉が吹き、表面がつるつるになってくると完熟の証だ。完熟前のものと比べると、確かに皮の滑らかさが違う。山﨑さんが収穫した黒皮かぼちゃを磨き上げると、ピカピカと輝きが増す。

 今や希少な存在となってしまった黒皮かぼちゃだが、山﨑さんにも跡を継ぐ人はいないという。「本当は、次につないでくれる人がいるといいなと思う。これまでも新しい生産者さんが挑戦したけれども、かぼちゃができるようになるまでに諦めてしまう人も多かった。それだけ、出荷できるようになるまでに手が掛かって大変ということ」

 それでも――と山﨑さんは言う。

 「『うちの黒皮かぼちゃがいい』って言ってくれる人がいるんだよね。市場からも『いつ入ってくるか』と電話がくることもある。大変だけど、求めてくれる人たちがいる限りは作り続けていきたいんです」

 宮崎伝統の黒皮かぼちゃは、丁寧に、手塩にかけて育てられてきたからこそ、日本の食文化を支える存在でもあり続けている。100年続いてきた歴史と文化を地道に守り続けている人々の想いが、後世に受け継がれていくことを願ってやまない。

丹念に育てられた黒皮かぼちゃは、関西を中心とした高級料亭に届けられる。

丹念に育てられた黒皮かぼちゃは、関西を中心とした高級料亭に届けられる。

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「残したい」想いとともに事業を引き継いだ味噌漬け

 担い手が少なくなりつつある宮崎特産の黒皮かぼちゃを、別のかたちで残していこうとしている会社がある。宮崎で85年以上にわたり漬物を製造する「道本食品」だ。

 道本食品の地元である宮崎県田野町は日本一の干し大根生産量を誇り、農林水産大臣により「日本農業遺産」に認定された。冬になるとあちらこちらで「大根やぐら」がお目見えし、冬の風物詩となっている。

 そんな道本食品が製造しているのが『日向かぼちゃのみそ漬』(商品名)だ。地元農家と連携し、特産の黒皮かぼちゃを丸ごと漬けたような印象的なビジュアルも相まって、空港売店や道の駅などでお土産として人気を博している。かぼちゃの漬物というだけでも珍しいが、生まれたきっかけはなんだったのか。専務取締役の道本泰久さんと、開発・品質管理室室長の濱田良一さんにお話を伺った。

 元々は昭和49年(1974年)に「大西食品」という会社が、使い道がなく捨てられてしまっていた完熟前の黒皮かぼちゃを何とかしたいという思いから、味噌漬けにしたのがきっかけだという。「そもそも漬物とは、食べきれない野菜を保存食にするというのが本来の姿です。黒皮かぼちゃの味噌漬けも、その思いから始まったものです」

 味噌で黒皮かぼちゃを漬けようと思ったきっかけは、風味や色合いなども理由のひとつだが、地元宮崎の味噌を使おうと考えたからだ。“宮崎ならではの黒皮かぼちゃと宮崎ならではの味噌で、宮崎ならではの漬物を作ろう”と生まれたのがこの商品だ。

 その大西食品が廃業するにあたり、平成29年(2017年)に黒皮かぼちゃの味噌漬けづくりを引き継いだのが道本食品だった。

宮崎で長年にわたり漬物を作り続ける道本食品の道本泰久さん(右)と濱田良一さん(左)。

宮崎で長年にわたり漬物を作り続ける道本食品の道本泰久さん(右)と濱田良一さん(左)。

事業を通じて地元・宮崎の活性化に積極的に取り組んでいる。

事業を通じて地元・宮崎の活性化に積極的に取り組んでいる。

 「『黒皮かぼちゃの味噌漬けをなくしたくない。作ってくれないか』ということで我々が引き継ぐことになりました。当時、大西食品の工場長も道本食品に来てくれ、技術を継承しつつ新しく作り上げたのが現在の『日向かぼちゃのみそ漬』です」

 引き継いでからの道のりは、決して楽なものではなかった。黒皮かぼちゃそのものの見た目が特徴の「丸」と薄切りの「きざみ」の2種類があるが、特に「丸」のほうは成形するのにかなりの技術が必要だったという。「簡単そうに見えて、きれいに丸くするのには相当時間がかかりました」と道本さんは振り返る。

数々の苦労を経て生まれた『日向かぼちゃのみそ漬』には、宮崎の生産者と企業の想いが込められている。商品は「丸」(左)と「きざみ」(右)の2種類を展開する。

数々の苦労を経て生まれた『日向かぼちゃのみそ漬』には、宮崎の生産者と企業の想いが込められている。商品は「丸」(左)と「きざみ」(右)の2種類を展開する。

宮崎の食文化の歴史と伝統を守り続ける強い覚悟を持って

 そんな苦労の末にできあがった、この丸い『日向かぼちゃのみそ漬』は、いったいどのように作られているのだろうか――。「百聞は一見にしかずですから」と、濱田さんの案内で漬け込みの様子を見せていただいた。

 まずは黒皮かぼちゃを割り、強めの塩で本漬けを行う。この本漬けには2ヶ月ほどかかるという。本漬けが終わったら種を取り、脱塩、圧搾、下漬けなどを経て調味液とともに袋詰めし、出荷までの間に熟成する。今回見せていただいたのは、この袋詰めから特徴的なかぼちゃの形に成形するまでの最終工程だ。

 下漬けが終わり洗浄された黒皮かぼちゃを計量し、手作業で袋詰めされていく。こだわりの調味液を充填し、真空包装したら検査や殺菌、冷却などを経て、成形担当者の元へ送られる。

 「最初はこの丸い形にするのが難しくて、試行錯誤していました。袋の端の寄せ方を研究したり、型を使ってみたり…… いろいろ工夫しながらようやく上手く丸める方法を編み出しました」と話してくれたのは、味噌漬けを引き継いだ時から成形を担当している那須貴子さん。今では1ケース24個分を成形するのに1時間ほどで作業できるようになったそう。それでも大変な作業である。

 「お客さまが手に取ったときに驚いていただきたい」という思いから考案された、かぼちゃを丸ごと漬けたようなユニークな形状は、数々の苦労を経て生まれたものだったのだ。

左:下漬けまで終わった黒皮かぼちゃを計量し、調味液に漬け込む。この工程にも丸く成形するための工夫がある。<br />
右:地元の味噌を使った秘伝の調味液。黒皮かぼちゃの優しい甘さを引き立てる。

左:下漬けまで終わった黒皮かぼちゃを計量し、調味液に漬け込む。この工程にも丸く成形するための工夫がある。
右:地元の味噌を使った秘伝の調味液。黒皮かぼちゃの優しい甘さを引き立てる。

成形担当の那須さん(左)と手作業で成形されたもの(右)。最初はどうやって丸い形を作るか試行錯誤の連続だったという。

成形担当の那須さん(左)と手作業で成形されたもの(右)。最初はどうやって丸い形を作るか試行錯誤の連続だったという。

 宮崎土産として人気の黒皮かぼちゃの味噌漬けだが、現在作っているのは道本食品の1社のみ。唯一生産を続ける会社として、今後の展開について伺った。

 「これから黒皮かぼちゃの生産者が増えていくという状況ではありません。この事業を引き継いだとき、契約している生産者さんは11名いましたが、今では3名にまで減ってしまった。ですから大量生産というよりは、少量でも買ってくれている人たちのために残していきたいという思いが強いですね」(道本さん)

 また、生産者の支援という側面もあるという。「味噌漬けに適しているのは未完熟のかぼちゃです。 生産者さんのほうで一級品ができたら市場で高く売ってもらって、市場で売れないものや廃棄するようなものをうちで買って加工をするというかたちです」

伝統を残していくために「栽培も含めてできる限りのことをしていきたい」と語る道本さん。

伝統を残していくために「栽培も含めてできる限りのことをしていきたい」と語る道本さん。

 そして、宮崎が誇る伝統野菜を通じて文化を継承していきたいという強い想いもある。「スーパーに並べて家庭用に買っていただくというよりは、宮崎のお土産物として売っていくことで、宮崎の文化と歴史を伝えるものとして価値があると考えています」

 しかし生産者も高齢となり、黒皮かぼちゃの存続は風前の灯火となっている。生産が途絶えてしまったら、この味噌漬けも姿を消してしまうのだろうか。

 「現在、原料は塩漬けの状態で5〜6年分は確保していますが、この在庫がなくなったとしても、味噌漬けを作り続けていこうと考えています。生産者の方のような立派なものは作れなくても、漬物用の完熟前の黒皮かぼちゃを自分たちで栽培することも視野に入れている。それだけの覚悟を持ってやっています」

 地元の食文化とともに歩み続けてきた企業だからこそ、持てる情熱がある。“黒皮かぼちゃ”が宮崎の地で、そして日本の食文化の中で生き続けていけるよう、人々の奮闘は続く。

宮崎の農業と日本の食文化を支えてきた「黒皮かぼちゃ」は地元の人々の熱い想いで支えられていく。

宮崎の農業と日本の食文化を支えてきた「黒皮かぼちゃ」は地元の人々の熱い想いで支えられていく。

※取材記事は漬物文化の啓発活動であり、販売目的ではございません。
そのため、連絡先の掲載は差し控えさせていただいておりますこと、ご理解並びにご了承くださいませ。

※掲載内容は取材時の情報です。

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