キューちゃんグルメ旅 番外編 マキコが行く漬物の旅

キューちゃんグルメ旅 番外編 マキコが行く漬物の旅

第五話

近畿地区

「ハレの日に華やかな、丹後ばらずし」

古都でありながら、いつも華やかな京都から、特急でも二時間以上かけて北上すると、京丹後地方へと着く。
さすがにここまで足を伸ばすと、緑の濃さが増してくる。天橋立という名所が近くて、そちらは外国からの観光客も多いけど、里山の拡がるこのあたりは静かで、昭和、いやもっと昔の日本にタイムスリップしたようだ。
同じ日本海沿いでも、この前行った佐賀とここでは風景が微妙に違う。丹後はぽっこりと盛り上がった山が連なっていて、山と山との間に幾何学的な美しい棚田が点在し、その向こうに日本海が望める。
故郷を持たないマキコだけど、ここに来ると、ひときわ懐かしい気持ちになる。DNAで記憶が受け継がれているのかもしれない。
丹後はマキコの母の故郷だった。マキコも四歳から十二歳までの子ども時代をここで過ごした。マキコの記憶のアルバムは、四季それぞれで野山が違う色をまとっている。
レンゲや菜の花、さまざまな花がいっせいに咲き乱れる春から、夏は新緑と青い海の色、秋は黄と赤の紅葉色に里が染まって、冬は真っ白な雪景色と灰色の海というように。
子ども時代をここで送れたことを、マキコは幸せだったと今でも思う。友だちと自然の中で泥だらけになって遊んだ。

今日はその頃の友だちの一人、幼なじみの里美の結婚式に出るためにやってきた。
「マキコ、ありがとう、遠くからごめんね」
三年ぶりの再会に里美は抱きついてきた。
「なに言ってるの、地球の裏側でも里美の結婚式なら飛んでいくよ!」
里美の泣きそうだけど笑っている顔を見て、マキコは少しだけ安心した。
何はともあれ、里美は決意したのだ。
「いろいろ心配かけたね」
「でも、大丈夫なんでしょ?」
「うん、いい結婚式にするよ」
「いい、結婚にする、でしょ」
「そうだね。いい家庭を作るよ」
里美はようやく、昔と同じ夢見る少女の顔をした。

結婚に踏み込むまでに、夫となる則男君といろいろと揉めたのだ。里美の家は丹後の旧家だったが、則男君は京都の公務員の三男坊で自分も公務員。京都でOLだった里美と則男君が知り合ったのは二年前で、「とっても気が合うの。優しくていい人よ」と嬉しそうな報告をマキコも受けていた。
だけど半年ほど前に、「どうすればいい?」と悩みの電話を受けた。則男君からプロポーズされたけれど受けていいものか?
「どうして? 待っていたんでしょ?」
とマキコが尋ねると、
「うん、でもね、ノリったら公務員をやめて職人になるって言い出したの」
「職人、って何の?」
「染織家」
「せんしょくか、って染め物とかする?」
「そう。一年くらい前から西陣の先生のとこに出入りしていたんだけど、結婚を期に本格的に弟子入りしたいって」
「は〜〜、なるほど」
則男君の生活は安定からほど遠くなり、一人前になるまで里美が働いて生活を支えるということになるという。
マキコは思わず我が身と重ねてしまった。婚約者の久太郎が「食の探求者になる」と言い生活が定まらず、結婚は先延ばしになったままだ。里美の躊躇はよく分かる。
そんな里美の悩みを聞いてやるだけで、マキコは有効なアドバイスもできずにいたが、結局、里美は則男君の夢を支える選択をした。

丹波では祝いの場では決まって、ばらずしが作られ、「ごっつぉう」と言われて愛されてきた。お正月や誕生日、お祭り、そしてもちろん結婚といった儀式に欠かせない郷土のハレの食べ物。
マキコの家でも、何かと口実をつけて母が作った。つい最近も、両親に挨拶にきた久太郎に、母は大喜びでふるまった。
「うまい! これが丹後のばらずしですか!? 本物だ、ほんまもんだ! おいしい!」
と感嘆の声を上げていた久太郎。母仕込みのばらずしならば、マキコが作って食べさせたことがあった。それはほんまもんじゃなかった、ということらしい。母と私と何が違うのだろう? でも違うのかもしれない……
ともあれ、作り方は簡単だ。市販のサバ缶のサバを、崩しながら鍋で炒めてそぼろにする。昔は地元でとれたサバを焼き、骨を抜き細かくほぐしてそぼろにしたという。
マキコの実家にももちろん、丹後の家には、ばらずし用のまつぶたという四角い木の箱がある。この箱の底に酢飯を敷いて、サバのそぼろを振りまいて、また酢飯を載せる。蓋で軽く押し、一番上に甘辛く煮たしいたけ、かまぼこ、三つ葉、グリーンピース、錦糸卵、紅しょうがなどで飾りつける。
これを正方形に切って皿に盛りつける。まるでミルフィーユケーキのように色鮮やかなおすし。まさにハレの日の「ごっつぉう」。

「里美の実家で開かれた披露宴には、たくさんの人が集まり、たちまち無礼講となった。紋付き羽織で京から現れた新郎の則男君は、次々と注ぎにくる丹波人の盃をしっかりと受け、酒豪ぶりを発揮していた。
その隣でうつむく文金高島田の里美は、しおらしい花嫁ぶりを演じている。
マキコはばらずしが載った大皿を手に、里美と則男君のところに行った。
「ほら、まだ食べていないでしょ、二人とも」
マキコはばらずしを切り、小皿に取り分けて、二人の前に差し出した。

「うん、マキコ、ありがとう」
 里美は顔を上げてにっこりと笑う。
「あ、ばらずし、これ食べたかったんですよ」
真っ赤な顔の則男君は、両手でうやうやしく小皿を受け取る。
「これね、私の手作り。おかあさんに台所借りて作らせてもらったの。ちょっと違うトッピングが加わったオリジナルばらずし」
「えっ、そうなの」
里美がひとかけを口に入れる。横から笑みを浮かべたままで則男君が見つめている。
「あ、おいしい! 何かカリッとして」
「そう、私もさっき食べてみて、やったあ合格だ、って思った。これがお二人への私からのお祝いね」

上の段の酢飯に、マキコはこつぶキューちゃんをふんだんにまぶしたのだ。
丹後のばらずしは、サバの甘くて濃いそぼろと、さっぱりとした酢飯が合わさり、口にほろりと拡がる。
そこに小さな粒々のキューちゃんが、歯にポリポリカリカリと当たり、アクセントとなって味を引き締めるのだ。
「ごっつぉうです! 僕、これを初めてサトちゃんに食べさせてもらった時、先生が丹後ちりめんの色染めをした時を思い出しました。あの時に感動して、いつか自分の手で、って決心したんです」
則男君は、色鮮やかなこつぶキューちゃん入りのばらずしをしげしげと眺めた後で、はふはふと一口で食べた。
にっこりと笑って里美が続く。
そんな新夫婦を、里美のご両親がじっと見ていた。お父さんは鼻をすすり、お母さんの眼には涙が浮かんでいる。
マキコはようやくホッと胸を撫で下ろした。——里美、則男君は大丈夫だよ。苦労はあるかもしれないけど、幸せになれるよ。
そう、里美がこのおすしにまぶしたこつぶキューちゃんになればいいんだから。
「ねえ、マキコ」
「なに?」
「今度はマキコの番だね。私がばらずし作りに行くからね」
里美は「おかわり」と皿を出す。
「うん、がんばる。私も久太郎も、まだまだ食いしん坊の旅が続くけどね」
そう答えて、マキコもこつぶキューちゃんまぶしのばらずしを頬張った。
ごっつぉうさま、です!


(了)

マキコの編集後記

特別企画第五弾・最終回となる今回は、「こつぶキューちゃんに合う近畿地方の食べ物」を募集しました。素敵な投稿がたくさん集まり、過去最大のご応募数を更新しました。その中から、特においしそうだったものや、エピソードが印象的だった投稿をご紹介します♪


  • 写真はイメージです。

    せち焼き(和歌山県)

    せち焼きとは、焼きそばを卵で固めてお好み焼きのように焼いた料理。せち焼きが出来上がった状態でこつぶキューちゃんを上からかけて食べるとおいしい!
    あまり知られていないせち焼きですが、和歌山のソールフードです。老若男女全員が好きになる食べ物です。キューちゃんを入れたら歯ごたえがプラスされて、パワーアップ!


  • 写真はイメージです。

    マボロシの高級魚、「ビワマス」の押し寿司(滋賀県)

    押し寿司ご飯の真ん中の層にこつぶキューちゃんを一面しきつめ、またその上にシャリを乗せ、一番上にビワマスのスライスを敷き詰める。ビワマスはそのままスライスしたものを使用してもいいし、昆布〆にしたものや、バーナーで軽くあぶったものも、おススメ。
    滋賀県出身ではないけれど、人生で一番長くを過ごさせてもらっているのは滋賀県。 おかげさまで滋賀県の美味しい食材の美味しさがわかる大人になりつつある。そのままでも美味しいこつぶキューちゃんを、滋賀の食材でアレンジしてあわせたらもっと、酒がすすむ!


  • 写真はイメージです。

    播州ラーメン(兵庫県播磨地方)

    兵庫県播磨地方の、甘い醤油スープが絶妙なラーメン。甘いスープに、少量のこつぶキューちゃんが効いて、お互い相乗効果で味を引き立ててくれそう。
    子どものころからずっと慣れ親しんだ味の播州ラーメン。当たり前だと思っていた味が、まさか地域ならではの味だったとは!
    甘いスープがたまらなく、スープは飲み干してしまいます。キューちゃんの合わせ技だと、ますますどっちもおいしく感じるはず!

このほかにも、素敵な投稿が多数寄せられました。全五回、本当にたくさんのご応募をありがとうございました!
これからも、いつもの食事に漬物をプラスして、よりおいしい食べ方をみつけてみてくださいね。