キューちゃんグルメ旅 番外編 マキコが行く漬物の旅

キューちゃんグルメ旅 番外編 マキコが行く漬物の旅

第一話

中部地区

「名古屋グルメの新エース、台湾まぜそば」

おおっ、こいつが台湾まぜそば!
カウンターのマキコの前に丼が置かれた。
ど真ん中に卵の黄身が輝いていて、これを中心に内側から炒め挽肉の茶と、さらに刻んだネギとニラが配されている。この緑のコントラストに、黒い海苔と白いニンニクがアクセントとなって添えられている。
絶妙なこの配色をしばし眺め、マキコは箸とレンゲを手に取ると、勢いよく混ぜ始める。黄身がとろりと金色の帯となって、青いネギとニラと混ざり合い、隠されていた太麺を巻き込んでいく。
出された時の整然コントラスト風景は、一瞬にして色と匂いと食材が醸し出す混沌B級グルメ世界へと変化している。

「なに? 台湾まぜそばを食べてない? よくまあ、グルメライターやってんな!」
と電話の向こうで久太郎(今のところ、婚約者なのであるが、いろいろとあってまだ結婚にこぎつけずに、遠距離状態は続行中。その話はいずれまた)からバカにされた。それで教えられたのが、高田馬場のこの店。大人気で、閉店間際ながらほぼ満席。
〝台湾〟と付いているが、発祥は名古屋なのだそうだ。そもそも名古屋で、台湾風の辛い挽肉を乗せた〝台湾ラーメン〟を売り出した店があり、東海地区のご当地ラーメンとして認知されるようになっていた。
ここから汁なし麺の一環として生まれたのがこの〝台湾まぜそば〟で、東京にも進出(マキコは知らなかったけど)、秘かなブームを作り出していたのだ。
なるほどうまい! やみつきになりそう。
ピリリと辛い挽肉とネギとニラの苦みが麺と混じり合って、食欲の塊と化し全身に満ち溢れる。これにニンニクが、B級グルメ感を倍加させている。

あ~っ、鼻を抜けて脳天に来る!
ティッシュ、ティッシュ……
カウンターに据えられたボックスから取ろうとして、隣のあんちゃんの手とバッティング。編みこみ頭にパーカーという、いかにもラッパー風で、汗と鼻水と涙を流しながら、大盛り麺をかき込んでいる。
ん、泣いてる?
あんちゃんは、顔をティッシュで拭くと、丼を掲げ、「追い飯ね!」とカウンターに告げる。
おねえさんが「はい」と丼を受け取ると、レンゲにひとすくいの白いご飯を入れる。

丼の底に残されていた汁とご飯を混ぜて、あんちゃんはやっぱり泣きながら、かふかふとかき込んでいる。そこまで感動するか?
マキコもあんちゃんに続いて、追い飯を頼んだ。この食べ方を考案した人に食の金メダルを進呈したい!
うん、そうだ! ここに久太郎の言うように、トッピングとしてきゅうりのキューちゃんを加えると、絶妙なアクセントになるに違いない。想像するだけでお代わりしたくなるが、さすがにこの店で持ち込みを頼める雰囲気はなさそうだ。お持ち帰り用も売っているので、家で試してみることにしよう。

追い飯バージョンもすっかり食べ終わり、マキコは大きく息をついた。
隣のあんちゃんは空になった丼を見つめ、口で何か唱えている。歌?
「それ、ラップ?」
 マキコは思わず声をかけた。
あんちゃんはぎらりとマキコを睨んだ。でもその頬を、涙が一筋、二筋……

ユズケンというあんちゃんとの、そんな出会いがあって一月後、マキコは名古屋に来ていた。
マキコがライターをしているグルメ雑誌「美食ニッポン」が、「ディープなごやめし」という特集を組むことになって取材に来ていたのだ。
味噌カツに鰻ひつまぶしに天むす、きしめんにエビフライだけでなく、最近はくだんの台湾まぜそばまで出現して、名古屋地区は独特の食文化を発信している。
で、マキコは一軒のラーメン屋さんにやってきた。ついでといえばついでだが、取材の一環ともいえる。
もちろんこの店にも、台湾ラーメンとまぜそば。そして、カウンターの中に四〇代後半とおぼしきおばちゃん! あのラッパーあんちゃんユズケンのかあちゃんと一目で分かる。
本場の台湾まぜそばを頼んで、がっちりと食べながらマキコは口ずさんだ。
「♫ネギ、ニラ、チャーシュー、タマゴ~を混ぜるんだぜ~」

かあちゃんがぎらりと(やっぱ親子だ!)マキコを見た。それなりに険しいまなざし。
「あ、追い飯下さい」
と丼を渡す。続けて一枚のCDケースを差し出した。
「これ、預かってきました」
かあちゃんは眉を寄せ、CDのジャケ写を凝視している。いかにも自主制作っぽく、コラージュしたユズケンがマイクを持っていて、『混ぜろ、ラップ魂!』という、かなりダサい手書きのタイトル。
かあちゃんはふんと鼻を鳴らした。
「あ、違います。私はユズケンさんとはただの知り合いです。何があったかも知りませんけど、頑張っているって伝えたくて」

かあちゃんはやっぱり何も答えず。
本当にマキコは、この親子の間に何があったか詳しくは聞いていない。ただ、ユズケンは「それなりだがね」のラッパーになるまで、故郷には戻らない(れない)のだとか。
ずいぶんと反対され、家出同然の東京行きまですったもんだがあったらしい。昭和みたいな話だけど、この手の親子の確執は時代を越えて不変なのだ。台湾まぜそばを食べながらのユズケンの涙が、すべてを物語っている。
「あの、追い飯を」
マキコの催促に、我に返ったユズケンかあちゃんは、ご飯をぽんと丼に放り込んだ。
「このトッピングも最高なんですよ」
手提げからタッパーを出して、きゅうりのキューちゃんを見せた。
かあちゃんはふっと笑ってようやく言った。
「ケンタの大好物だがね。ほら、あるよ」
カウンターに小さな壺を出し、中を見せた。
キューちゃんが詰まっている。
マキコはタッパーを閉じ、壺の方からキューちゃんを貰ってトッピング。残ったネギとニラ、挽肉と白いご飯に、キューちゃんが顔を覗かせている。ほんわり白飯に辛さが混じり、キューちゃんのポリポリが、まさにラップを奏でているようだ。
ユズケン、いけそうだよ、あんたもかあちゃんも!
キューちゃん入り台湾まぜそばを食べながら、マキコも涙が出そうになった。

(了)

マキコの編集後記

特別企画第一弾「きゅうりのキューちゃんに合う中部地方の食べ物」には、たくさんのご応募が集まりました。その中から、惜しくも小説化されなかったけれど、とてもおいしそうだった投稿をピックアップしてご紹介します♪


  • 写真はイメージです。

    瀬戸やきそば。(愛知県瀬戸市)

    豚肉の煮込み汁で炒めた、そぼくな味の焼きそばです。仕上げに、キューちゃんを数粒、添える。
    焼きそばといえば紅しょうが・・ですが、瀬戸焼きそばはそぼくな味付けなので、キューちゃんのしっかりした味付けはよく合うと思います。


  • 写真はイメージです。

    やたら(長野県北信地方)

    おくらやみょうが、大葉やナスなどのとれたて夏野菜とキューちゃんを細かく切り、まぜる。野菜はそのときにある野菜でOK。味の素などで味をととのえてもOK。
     “やたら”となんでも入れるから、“やたら”においしいから、などの理由からこの名前がついたそうです。「食欲がなくなるような暑さでも、【やたら】をかけて食べるとやたらごはんがすすむ」といいながら、3年前に他界した父が夏になるとよく食べていました。当時は父につられてなんとなく食べているだけでしたが、今では夏になると無償にその味が恋しくなります。新鮮な長野のとれたて夏野菜にキューちゃんでアクセントをつける、シンプルの中に絶妙なおいしさ光る“やたら”。父の笑顔を思い出せる、夏にはかかせないレシピを考えました!


  • 写真はイメージです。

    味噌カツサンド(愛知県名古屋市)

    かつとパンの間に千切りキャベツの代わりにキューちゃんを挟む
     故郷は名古屋なので、部活の遠征などで母がもたせてくれる味噌カツサンドは、特別な時にしか食べられない、じんわり染みる思い出の味です。千切りキャベツでもよいのですが、キューちゃんでシャキシャキとアクセントをつけると、今までにない美味しさがあるのではと想像を膨らましました!